「ごま」と聞いてイメージするのは、小さな粒のごまですよね。 私たちが普段食べているのは、ごまの「タネ(種子)」なんです。 でもそれは、ごまの一生の、ほんの一部。 一粒のごまから小さな芽が出て、3メートル近くまで成長し、かわいい花を咲かせ、タネを残す。 ごまの一生を知れば、きっと愛おしく感じられると思います。
ごまは、ゴマ科ゴマ属の一年生草本で、熱帯アフリカのサバンナが原産地です。サバンナからインドへ伝わり、さらにインドシナ半島から中国を経て、日本には縄文時代に伝わったといわれています。気温が高く、乾燥した土地を好むため、タネまきは5月中旬から始めます。それまでに草を刈り、タネをまく準備をします。私たちの畑は耕作放棄地を活用しており、肥料や、除草剤などの農薬は一切使いません。
ごまのタネは、ごまの粒です。前年に育ったごまの中で、特によく育ったごまのタネを残しておき、次の年にまきます。このように、タネを買わずに自分の畑でタネをとり、代々、つないでいくことを「自家採種(じかさいしゅ)」といいます。タネをまくときは、写真のように、30センチ間隔で4〜6粒ずつまいていきます。肥料や農薬は使いません。タネが土地の記憶を重ねていけるよう、毎年同じ時期に、同じ場所で栽培します。
1週間前後で発芽します。ある程度育つと、茎の太さや成長の様子などを見て、元気に育ちそうな株を残して間引きをします。間引きをするときは、1本1本を目で確認し、指でさわって、やさしく丁寧に手で作業します。小さな芽なので、腰が痛くなったりして大変ですが、ごまちゃんが元気に育っていけるよう、がんばってお世話をします。
ごまはぐんぐん成長し、みるみるうちに見上げるほどの大きさになります。一般的に、ごまの背丈は 70〜150 センチメートルとい われますが、私たちのごまは、3メートル近くまで伸びていきます。開花期には、毎日たくさんの愛らしいピンク色の花が咲きます。1日咲いて、翌日には落花していきます。日本ミツバチ、西洋バチ、クマバチなど、いろいろな種類のハチがごま畑を訪れ、受粉を助けてくれます。ごま自身で受粉することも可能です。受粉が終わると、サヤの中にごまのタネができていきます。
一つのサヤの中に、80〜100 粒のごまがきれいに並んで詰まっています。これがごまのタネです。ごまはどんどん天に向かって伸びていきますが、一番下のサヤが茶色くなって開いてきたら収穫のサイン。そのままにしておくとサヤがはじけて、中のごまが飛び散ってしまうからです。収穫したごまは、雨に濡れないようにビニールハウスの中に運んで立てかけておき、追熟させます。
十分に追熟させたら、立てかけておいたごまを逆さまに持ってブルーシートの上で叩き、ごまを叩き落とします。サヤやゴミなどが混じっているので、2種類のふるいを使って大小のゴミを取り除き、干して虫を逃します。軽い葉っぱなどを風で吹き飛ばす風力選別、色で選別する機械選別などで細かなゴミまで丁寧に取り除いていきます。非加熱の「洗いごま」は、最後は目視による手選別も行います。機械では選別できなかった、ごま粒のような極小の石などを目で探し、ピンセットで取り除いていきます。とても根気のいる作業ですが、良いものをお届けするために、手を抜くことはできません。
その年に育ったごまの中で、とくに優れた形質をもつものを選び、タネをとるための「母本(ぼほん)」にします。いまでは、こうして自家採種をする農家は少なくなり、タネを購入する農家が大半ですが、私たちは、命をつないでいくために懸命にタネを残すごまの願いを叶えるためにも、毎年、タネをとり続けています。気候変動が年々深刻化し、植物たちも、台風や酷暑など、過酷な環境にさらされています。肥料や農薬のない環境に慣れ、過酷な気象条件も耐え抜いてたくましく育った親の記憶は、しっかり とタネに受け継がれます。そのタネをまき、さらにつないでいくことこそ、食の持続可能性や、食の安定につながると私たちは考えています。